女の子大好き 1

女の子が大好きなのだ。

 

海の公園で散歩仲間が集まり談笑しているさなか、その中に犬友の美人犬のラッキーに会ったりするともう大変だ。好きで好きでしょうがないよというような求愛態度に即出るのである。

 

彼女の鼻をクンクンと嗅ぐために、まずはラッキーの足下にひざまずきホフクゼンシンして詰め寄るのである。彼女がまんざらでもない場合はそのままお尻に巧みに回り込み、お尻をクンクンと嗅ぎ始める。

 

ここで彼女が気を悪くして

「何よ ひつこいわね ガウガウ」

と怒った場合、ハチは最初のひざまつきポーズに戻り、

上目使いに

「ごめんなさい つい つい 君が可愛くて」

なんて言いながらホフクゼンシンをまた始める。

 

そして上手く後ろに回り込んでお尻をクンクンして、彼女の機嫌をそこなわなければそのまま後ろから、事におよぼうと乗りかかるのだ。

 

ここで彼女のママに「ハッチ 駄目よ! オシッコを人に引っ掛けるはっちゃんみたいな黒い毛がモサモサの子犬が生まれたらどうするの!」としかられるのである。

僕は慌ててハチのしっぽを引っ張って彼女から引き下ろす。

ハチは興奮覚めやらず、

「なぜ駄目なの パパ!」

「駄目なものは駄目!」

 

それを見ていた犬友の叔父さんが

「犬は飼い主に似るっていうからな!女の子のお尻を飼い主もおいかけてるのがハチに移ったんじゃないの」

なんて言われてしまい他の犬友さんもニヤニヤ笑ってハチと僕を見くらべているのである。

 

もはや僕のニックネームは「はっちゃん」になっていてハチと同じ名前で呼ばれ似た者同士だと思われているのだ。

 

そんな犬友会話を交わして、夕方の犬友の散歩会話も終わりそれぞれ岐路につき始める。

 

ハチが大好きなラッキーとは途中で分かれて僕とハチは二人できりになる。

もう日が暮れかけて廻りに誰もいない二人だけの海岸を確かめてハチのリードを外す、いつもであれば僕の廻りをぐるぐると走り回って楽しそうにするのだが、リードを外したとたんこの色魔と化したハチは分かれたラッキーの方向目指して黒い稲妻のごとく駆け出した。

 

「駄目!ハチ!」と言っても止まる訳もなく僕もハチを追いかける。

短い足を一生懸命回転させてハチは砂浜を駆けてぬけて芝生の上を飛んでいく。水場を超えたところでやっとハチを見つけた。案の定ラッキーに追いついてラッキーママさんにたしなめられているところだった。

 

「はっちゃん ハチが追いかけてきたから、かなわぬ恋もあるのよと諭したわよ」

 

ラッキーのさんは近くの歴史ある「金沢園」という料亭の女将さんだけに、豊かな人生の教訓を僕のハチにママまで教授してくれる。僕はラッキーママにお礼を言ってハチを確保して抱きかかえた。

 

家路の途中でハチに聞いてみた。

「ラッキーの事がそんなに好きなのかい?」

ハチはブルブル身震いをさせながら言った。

「パパ あれはレディーに対する礼儀だよ。わかるでしょう。」

 

称名寺の鐘が鳴った。