2010年 宇宙の旅 はやぶさの贈り物

 

 あれは2年目前の613

 

「はやぶさが7年間60億キロの大航海から帰還し燃え尽きた日」

 

覚えていらっしゃいますか?多くの人に「感動」を与えた「はやぶさ」が帰還して燃え尽きた日です。

人間に「感動」をプレゼントした機械である人工衛星が「はやぶさ」です。

「感動」について「はやぶさ」を通して考えたいと思います。

これは感性マーケティングが「はやぶさ」を通して実現したと思います。この場合はメーカーはJAXA,商品は「はやぶさ」、お客様は「老若男女全ての人々」。この3者の「感性の同期化」が行われたのです。

この「感動」の原因は3つに分析出来ます。

 

  「目的と情熱」

  「ネーミング」

  STORY性」

 

今回は「ネーミング」についてふりかえってみましょう。

 

開発時点でこの小惑星探査機の名前はMUSES-Cだったのを知っていますか?

人工衛星や宇宙探査機の名前は打ち上げた後、宇宙空間で軌道に乗ってから「愛称」として発表する事が通例となっています。最初は「ATOM」という名前が候補に挙がったそうです、手塚治虫先生の鉄腕アトムの「アトム」です。最終的には、猛禽類の「隼」が獲物を見つけるとそれに向かって一直線に素早く勇敢に攻撃をしかけ、正確に獲物を確保して巣に戻るという「隼」の狩りの行動と、今回のミッションが似ているので「はやぶさ」になったそうです。

 

MUSES-Cが「はやぶさ」というニックネームになったときにこの小惑星探査機は「生命」を宿したのです。無機質な機械が一人の「人格」になった瞬間です。

川口教授が後に出版された本のタイトルは、「はやぶさ、そうまでして君は」(川口淳一郎 宝島社)です。「君」という表現に大変共感します。開発者の皆さんにとっては、可愛くて仕方ない小惑星探査機が「はやぶさ」だったのです。

 

人は、MUSES-Sではどんなものかイメージすることが出来ません。「はやぶさ」という名前は機械に「人格」を与えそれがどのようなもの(人)か、イメージする事を可能にしたのです。「はやぶさ」はシャープなイメージ持つ猛禽類です。その猛禽類の「はやぶさ」が大宇宙空間に獲物を求めて旅立っていったのです。それは友人が大冒険を行っていると同じ感覚になりました。MUSES-Cですと小惑星探査ですが「はやぶさ」ですとこれを大冒険と表現する事が出来ます。小惑星探査というミッションが大冒険となりワクワク感やドキドキ感を感じられるようになったのです。

 

JAXAは「はやぶさ」の大冒険の情報を伝える為にPRESS活動をHOME PAGE に立ち上げました。これは商品のPR活動とまったく同じ行為です。

 

どのような商品のネーミングでも、ひとはイメージを持ちます。それは脳内に蓄積された記憶がイメージを作り上げて行くのです。セミナーでネーミングとイメージの形を計るワークをするとこんな結果が出てきます。たとえば「サラサ」と「ブ-ブ」と「ギギ」では感じ方が全く異なります。この3つのイメージのヒントは既に脳内にインプットされており、殆どの人は同様のイメージ形を創造できます。たとえば「サラサ」は「細かな雪がサラサラ」とか「木の葉がサラサラ」とかイメージ出来て、細い線が軽快に左右するイメージ形をもつ方がとても多いです。また「ブーブ」は絵本の「ぶーふ―う―」の子ブタと「丸いもの」がイメージ出来て曲線で数個の円が繋がったイメージ形が共通します。また「ギギ」は「濁音でドアが開く音」など引っかかるイメージが出来てギザギザの線のイメージ形が共通します。

 

つまり、商品のネーミングは「人」がどのようにそのネーミングでイメージするのかが大きなポイントなのです。 MUSES-Cでは人や物をイメージする事が困難ですが、「はやぶさ」になるとシャープで素早く獲物を確保する鳥のイメージや既にJRで使われた深夜特急のネーミングのイメージから「スピード」や「素早い動き」や「カッコよさ」「個性的」「単独行動」をイメージする事が可能となります。そしてJAXAは「はやぶさ」から「はやぶさ君」というネーミングでテキスト化しました。

 

これは帰還する6か月前、2010年の1月JAXA宇宙科学研究本部 月・惑星探査プログラムグループによってWEBに掲載されていったのです。「はやぶさ君の冒険日誌」2010(もうすぐかえってくるよ)といタイトルで今回の探査目的と経過が漢字に仮名を打って誰にでもわかるように配慮されています。特に子供たちには夢を与えるテキストになっています。

 

「はやぶさ君」というネーミングは素晴らしい発想でした。それはもはや身近な「男の子の大冒険」のイメージが伝わります。小さな男の子が誰も挑戦していない惑星間大航海に一人で挑み、体中は傷だらけになりながらも地球に戻ってくる姿を思い浮かべることが出来るのです。このネーミングのおかげで人々は感動や共感を感じる事が出来たのです。

 

ここで使われた感性はMARKET IN(恋愛感性)です。読んでもらう人の事を深く想う気持ちがこのテキストには現れています。タイトルは誰でも特に子供が興味を抱くように、これを読んだ子供たちが将来のJAXAを更に育て上げる人材になるかもしれませんから。またこの文章はあたかも「はやぶさ君」自身が日誌をつけて書いている文章なのです。JAXAの科学的な表現ではなくて「はやぶさ君」自身の言葉として書かれているのです。

(続きます)

 

 

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http://connect-de-r1.jimdo.com/2010年宇宙の旅-はやぶさ-の贈り物/