さよなら 僕のハチ

毎日点滴。

 

汚れた腎臓を綺麗にすること。

腎臓機能を回復させること。

このための24時間点滴体制だ。

 

重病な子はこの部屋に隔離される

色んな生い立ちの重病の子がいる部屋だ。

飼い主はそのゲージの前で

ひたすら祈る。

 

ほんの少し食欲が出てきた。

そうそう食べるんだよ。

少し尻尾が上を向いてきた。

そうそう元気出そうね。

 

異常な数値が少し落ちてきた。

しかし正常な数値には程遠い。

 

「透析をやりましょうか?」

「可能性があれば何でもお願いします」

「覚悟は要ります」

「お願いします」

 

出来る事は何でもやってやる。

ハチを死なせてなるものか。

 

病院初の犬用の透析を5回行った。

長時間なので診察が終わった深夜の治療だ。

透析の日は眠れない。

「もし」が頭をよぎって眠れない

終わると連絡をくれる。

早朝の電話である。

「無事に終了しました」

お礼を言ってやっと眠れる。

 

徐々に元気になってきた。

食欲も出てきた。

がつがつと食べ始めた。

数値も下がっている。

 

若い女性の先生が好きらしい。

おう!ハチらしさがでてきたな。

先生たちに可愛がられている

 

やっと退院だ。

週に2日間だけ入院。

5日間は家で過ごせる。

ハチ用のバギーを買った。

3輪車のカッコいい奴。

カートに乗せれば

散歩もできる。

 

食欲が落ちたり出てきたり

ぐったりしたり吠えたり

ハチ 

がんばって薬を飲みなさい

 

土曜日の朝

バギーに乗せて海の公園に散歩だ。

ハチはご機嫌でバギーから海を眺めている

ハチはこの海の公園で沢山の友達や

思い出を作ってきた。

ハチと僕にとって大切な場所だ。

 

犬友に闘病生活を告げる。

心配顔の数々。

 

土曜日の夜

定期検査入院をさせる。

 

日曜日の朝

 

電話

ハチが危篤

 

苦いものがこみ上げてくる。

 

家族で病院に向かう

沈黙の時間

時間が止まった

病院に行きたくない

事実を見たくない

受け入れたくない

 

 

ハチが生命維持装置を付け横たわっている

もう動いていない

呼んでも触っても叩いても

動かない

 

家族全員で泣いた

家族全員で涙が止まらなかった

娘が僕の肩を抱いた

 

ハチが死んだ。

 

だめだ

受け入れられない。

止まらない

 

 

家に連れて帰る

弟のリュウちゃんが玄関まで迎えにきた

 

ハチを見せた

すごすごとうつむいて立ち去る

後ろ姿が泣いている

 

ハチはもういないんだ

 

涙が止まらない

受け入れられない

僕は時間の小さな穴に閉じこもる

認めない

絶対に認めない

 

 

火葬の日

 

悲しくて 悲しくて 悲しくて 悲しくて 悲しくて 悲しくて

さびしくて さびしくて さびしくて さびしくて さびしくて さびしくて

 

僕は海にむかって大声で叫び続けた

 

ハチの馬鹿!

ずっと一緒にいようと約束したのに

ハチの馬鹿!

ハチの馬鹿!

約束を破るな!

ハチの馬鹿!

 

激しい嗚咽

止まらない

 

どうしようもなく

悲しい

 

とても

深く悲しい

涙が枯れて止まっても

乾いた涙を流し続ける

 

骨壷に入ってハチが戻ってきた

 

もうシッコをかけるハチはいない

 

悪戯をするハチはいない

 

脱走するハチはいない

 

ハチの馬鹿