ごみ箱デビル

ただいま!

 

玄関を開けると猛ダッシュで黒い塊がやってくる。

同じく、つるんで最近家族になったプチバセのリュウちゃんも嬉しそうに尻尾を振って出迎えてくれる。

 

「今までどこに行ってたんだよ!」

そんな事をハチはいってるんだろうなあ、そう思いつつ足にまとわりつくハチを踏みつけないように気をつけてリビングに向かう。

 

リビングの横にあるキッチンの風景に僕は愕然とした。

 

高さ30センチ広さ2平方メートル程度のゴミの山が出来ているではないか!

なぜ家の中にゴミの山があるんだ?!

こんなことをするのはそうハチしかいない。

 

僕は叫ぶ「ハチッ!」この瞬間ハチはベッドの下のすみかに脱兎のごとくいやウリボウの如く走り去る。

 

僕の住んでいる町は横浜市である。

市民の心得としてゴミは「分別」しなければいけない。

ゴミの山は「プラゴミ」「紙ごみ」「ペットボトル」に分別されたゴミ箱をハチは全て押し倒してその中からお気に入りのゴミを引っ張り出してかき集めて、ハチゴミ山を作ってハチゴミ山大パーティーで大騒ぎしていたのだ。

 

その上に棚からストックしてある「昆布」「するめ」「鰹節」「缶詰」「マヨネーズ」「ドレッシング」などを引っ張り出して中身を取り出し、ゴミと一緒にミックスしたうえで仕上げに御丁寧にオシッコをハチゴミ山全体にかけて大満足状態だったのである。

 

相棒のリュウちゃんはグルになって悪い事はしないが、鰹節をかなり食べた形跡が口の周りについている。

 

主犯はハチだ。

ハチ以外にこんな事はしない。

 

もう一度僕は「こら ハチ!」と叫んだがすみかから出てくるわけもない、書類が入ったバッグを机において僕は疲れた体に鞭をうってかたずけ始めた。

膝をついてゴミを分別しながらビニールに入れていくわけだが、これが凄いにおいがする。プラゴミ+するめ+ハチのシッコでクサヤが出来たのではないかと思うような匂いだ。

 

うーん なんてやつだ なんでこんなことをするんだ・・・・。

とにかく元通りゴミを分別してゴミ箱に放り込んだ。

におい消しのスプレーをシュシューとかけてやっとゴミ山を片付けた。

 

ふーとため息をついてソファーに座って休んでいるとカチカチカチとフローリングを歩く音が聞こえてきた。

主犯のハチだ。

近くまで来ると今度はホフクゼンシンでそろりそろりと僕の足元にやってくる。

目くじらを下げて耳を寝せて尻尾を一生懸命にふってやってくる。

 

「こらッハチ」

というと嬉しそうに足に顔をすりすりし始める。

僕は抱き上げてハチのひとみをのぞいてみる。

悪意のない透き通ったひとみがそこにある。

 

アツ いけない いけない 

こうやっていつもハチがなにかいたずらしても怒らないからなめられてしまうんだ。

 

僕はハチを高く抱え直して

「どうしてこんな事するんだ?」と聞いてみた。

 

耳を垂らしてハチが答えた。

「パパが喜ぶから」

嬉しそうにハチが答えた気がした。

 

その後このいたずら事件は週に1度ほど続き、最初に帰った家族の誰かはその都度

「こらハチ!!!」と叫ぶことになった。

 

奥さんはとうとうこう言った。

「もうハチを山に捨てよう!」