魅力を分析する

東大キャンパス銀杏並木
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VOL-1

「潜在する魅力」

東京大学 大学院工学系研究科 機械工学専攻 講師  柳沢秀吉

(魅力の語源に見る潜在性 講義より)

「魅力」とはいったい何でしょう?

魅力の「魅」を分析すると「鬼」と「未」に分けることが出来ます。

「鬼」は「ばけもの、もののけ、すだま」などであり、そこから転じて「魂をうばい心 を引きつける、とりつき惑わす」などの意味を持ちます。一方「未」は「微」につなが り「はっきりしない」の意味を持ちます。つまり「魅」の語源は、はっきり見ることの 出来ないものが、人の心を引きつけて時として取りつき惑わすと意味だと言えます。

 

(所感)

工学的な見地からの説明ではなく「文学的」な入口から説明がありました。

面白い切り口です。はっきり見ることが出来ないもの質を示すものが「感性」だと思います。

図1
図1

(品質としての魅力 講義+所感)

品質を三つに分類してみましょう。

それは「当たり前品質」「一元品質」「魅力品質」に区分されます。

図の横軸は品質の充足度を表し、縦軸は顧客の満足度を表しています。

「当たり前品質」は品質が充足しても満足度は向上しませんが、品質が不充足ですと満

足度は不満となります。「一元品質は」充足度と満足度が線形関係にある品質です。

つまりX=Yの関係です。「魅力品質」は不足していても不満はありませんが、充足すると満足度が向上します。

言い変えると「当たり前品質」は基本性能、安全性、「魅力品質」は感性品質や消費者にとっての有効な魅力と考えると解りやすいと思います。

 

図1は3つの魅力を説明しています。

「当たり前品質」は基本機能、安全です。最低限の必要な品質ですが顧客満足には貢献

しません。しかし少しでも不充足だと不満足の大きな原因となります。

「魅力品質」は無くても不満足は発生しません。左上の「未」の部分ではっきり見るこ

との出来ないものがここに眠っています。これを探すためには、固定観念の枠を外してオフィスを出て違う価値観で新しい価値観を探しましょうと言っていますが、まさにこの部分です。 この図から言っても新しい価値は足元に眠っているようですね。新しい価値観で掘り起こさなければいけません。

 

図2
図2

2はでは機能性質の市場での変化を表しています。 

新機能を投入した場合は今までにない「魅力品質」ですので右上の「魅力品質」として顧客満足に繋がるます(魅力黎明期)。他社の追随が追いつかないような技術であればあるほど長い期間の独占的な魅力品質であることができます。

技術の研究開発は不可欠です。

そして成長期にはいると一元性魅力へと変化します。つまり市場に他社の参入が始まり独占的な魅力ではなくなってしまいますが、市場に十分に行きわたるまでは、成長期として一元性魅力として売り上げを確保できます。最終的には成熟期に入り「当たり前品質」へと変化していきます。技術的な機能性質は市場で商品のライフサイクルと同じように変化していくのです。

 

 

図3
図3

3では物理的効果から精神的効果へと魅力の品質が成長していくことを説明してい

ます。左上のマズローの欲求5段階説が証明されるように、成熟化社会では物理的効用よりも精神的な効用が重要になってきます。

物理的効用は「当たり前品質」そして精神的な効用は「魅力品質」なのです。

この3つの図の説明は機械工業業界の中で主張された説明ですがファッション業界や

食品業界はもとより農林水産業全てに当てはまる法則です。

 

このあとSD法で感性の多様性を解析する実験結果の報告が行われました。感性工学でも「感性」を測定して形容詞で表現される感性的な言葉を解析分析して数値をつけて「感性度」を表す試みが行われていますがこれはナンセンスだと思います。(あくまでも主観です。)なぜなら数値化された時点でそれは左脳のロジカルな思考に変化するからです。変化がなく一定の価値感が約束されていれば感性の数値化はある程度可能でしょう。

しかし絶えず変化しているものに対して一定の数値を付けて判断する事は非常に危険

です。もし数値化出来てしまったらどうでしょうか?各企業はロジカルシンキングで同じ商品を開発してし「低価格」市場へと変化してしまいます。

これでは全く「感性」を使う意味がありませんし有効な手立てではないと思います。

各企業が独自の価値感を持って商品開発するところに成熟化社会のビジネスチャンスや面白みがあると僕は思います。

感性を大きく分けるとIMPUT感性とOUTPUT感性に分かれます。五感でIMPUTされた感性が、その人の中の感受性で分解されて脳に記憶が蓄積されていきます。蓄積された要素がその人にとって楽しいのか好ましいのか?これが「感性品質」だと思います。

送り手のOUTPUT感性と受け取り手のINPUT感性が「同期化」したときに「ヒット商品」や「INNOVATION」が起こるのです。

次回は「価値中心設計」についてお話しします。

 

カラヤンがサントリーホールの事を「音の宝石箱」と表現

しましたが、宝石の輝きのように空間に飛び散った音を捉え

るには、やはり感じること、感性が必要なんです。

音響設計士

(現役最高齢 87歳)

永田 穂