魚佐次と新聞紙 
(記憶再生装置)

 
 
鎌倉野菜を買った後に必ず寄る魚屋がある。 それが逗子の魚佐次だ。地元の漁港で水揚げされた魚を主に販売しているこの店は、台の上に砕いた氷を敷いてその上で「等身大の鮮魚」を売っている。決してスーパーで売っているように加工されてプラスティックの容器に切り身を入れてサランラップで包装してバーコードと価格がついているような売り方ではない。種類も季節によって豊かで眺めていても楽しい。イトヨリ ホウボウ 鯛 鱸などがそのままの「魚体」で大きさも微妙に異なり艶やかで新鮮な魚体が人を引きつける。 

 
「この鱸を三枚におろして」と頼むと、年期の入ったまな板の上で、年期の入った出刃包丁で年期の入った職人がテキパキとさばいてくれる。「マイカスタマイズ解体ライブ」が目の前で行われているのだ。 自分が頼んだ鮮魚が目の前で素早く解体されるのは何とも快感でこれは「美味しい」に決まっている、と僕の脳が興奮しているのがわかる。「はい、800円」と威勢よい声が響いて三枚におろした鱸を「新聞紙」でバシバシと音を立てて包んでくれるのだ。この「新聞紙」が魔法の紙ではないかとおもえるほど「鮮度」を封じ込めてしまう。冷蔵庫にいれて調理の時に「新聞紙」を開いてもその「鮮度」は変わらない、そして解体ライブの情景と音を思い出すのだ。「新聞紙」は情景と音を思い出される「情報再生能力」を備えている。 

 

 
新聞は最新情報の伝達手段として開発された。 されど情報は毎日更新されてしまうので新聞紙の情報価値は短い。ところがこの新聞紙の素材は「鮮度」という情報を保管再生する事ができるのだ。 

ブランディングにとって非常に重要なFIRST IMPRESSIONを担うブランドの5重構造の外枠の機能を果たしているのが「新聞紙」だ。外枠はお客が「どう見えるか どう感じるか」を発信する非常に重要なコンタクト機能である。ここで殆どのFIRST IMPRESSIONが生まれる。ここで必要なのはお客様の心にフックをかける事だ。フックとは予定調和に反した要素である。これが魚佐次では「新聞紙包装」なのだ。 しかも「音」や「期待感」までもこの新聞紙は包んで保管する事ができるのだ。 映画にでてきそうな熟練の包丁職人や小柄で猫背の販売達人の老人など心にフックをかける仕掛けが店内には満ちあふれている。 

新しいマーケティングを考えるには必須のお店 
「魚佐次」なのだ。