HERMES VS LVMH

~「価値の根源」争奪戦~

 

二つのラグジュアリーブランドの争いを紹介します。新聞でもニュースになった経済軸で「株」をめぐる戦いではなく、その商品価値を維持するために繰り広げられている「生産工場獲得」の戦いなのです。

 

Marc Rozier という企業があります。歴史は古く1890 年に、シルク製品とジャガード織の産地として有名なフランス・リヨンで設立されました。ここは工場ですから自社ブランドを販売してきたわけではなく、ラグジュアリーブランドのOEMで生計を立ててきた会社なのです。そしてスカーフ、ストール、マフラー、ショールなどの生産に特化したこの工場は、創業家による経営を守っており、120の膨大なアーカイブを保有しています。Marc Rozier の製品は、100%フランス製です。デザイン、織り、プリント、縫製、仕上げのすべてを、自社工場内で行っています。このような工場は、MarcRozier を含め、フランス国内にはもはや2 軒しか残っていません。

 

ここの価値は二つあります。

まずは1世紀以上のラグジュアリーブランドのデザインの歴史がアーカイブとして存在しているということです。いわゆる「デザインソフト」の宝庫なのです。ファッションの歴史は繰り返され刷新されて新しい息吹を創りあげてきます。この工場はその歴史を語ることが出来るのです。デザイナーがこのアーカイブを覗くときにどれだけインスパイヤーされるでしょうか?膨大なデザインの宝庫なのです。

そして1世紀以上の間にわたり蓄えられてきた技術力です。素材の調達からプリント・ジャカート・縫製という製造工程を全て備えているのです。ですから外注に出すことなく一貫して生産管理でき、新技術の開発が数々おこなわれてきた歴史があります。そしてそのDNAが今も生きているのです。ラグジュアリーブランドはそのイメージが前面にくるマーケティングをおこなっていますが、その価値の根源は「商品力」です。最高の素材と最高の技術と 新たなデザインがなければラグジュアリ-ランドは成立しません。

 

そこでこの二つの企業が「価値の争奪戦」を繰り広げているわけです。 なぜならば「価値の根源」がこの工場に在るからです。いくらマーケティングが強くそのイメージを的確に市場に伝えているとしても、その物自体の「価値の根源」(ファッション性)が魅力あるものでなければ消費者はそれを見破ってしまいます。

 

ラグジュアリーブランドの商品の魅力構造の「コア」は「最高の技術」と「最高のクリエイティヴ性」です。この二つが無ければ「魅力」は在りません。そしてこの「コア」を取り巻くのが「マーケティング」です。マーケティングはこのコアに従わなければいけません。

http://connect-de-r1.jimdo.com/感性価値商品構造分析/価値の根源/

桃李不言 下自成蹊 (中国)

桃李もの言わざれども 下自から蹊を成す

(有徳の人の元へは自然に人が集まる)

 

桃やすももは元来が美味だから、別に人を集める工夫をしなくて

事前に人が集まり、その歩いたところが道となる。

 

Good wine needs no bush (仏国)

「美酒は看板を必要としない」

 

「差別化」を考えていくとこの「商品価値の根源」からはなれてしまう「罠」が待ち構えています。差別化は価値軸をずらす事ですが価値の根源までずらしてしまいがちなのです。

本来の「差別化」とは価値のコアを掘り下げていくことです。差別化の「罠」に気を付けて下さい。